佐野利夫(江戸更紗染物師)
更紗はインドから東南アジアにかけていくつも種類がありますが、江戸更紗
の技法では、彫った型紙を使って柄を染め出します。インドの更紗なんかは版木
を彫って、押して染めてるでしょう。江戸更紗では、一つの柄でも20枚から30枚
は使って染めているんです。最低でも10枚は型紙を使う。多いもので38枚という
のがありますよ。
江戸更紗の特徴になるのが、柄の輪郭となる、糸目という細い線です。この型
紙が傷みやすくてね。これがだめになるとその柄の型紙全部を彫り替えなきゃな
らないの。紙の伸びが違うからね。組になった30枚の型を、全部彫り替えること
になるんですよ。
型紙にはホシという印がつけてあるから、型紙をホシに合わせて生地に柄を染
めていきます。このホシをずらしちゃうと柄がずれてだめになっちゃう。だから
ね、うちは夜なべ仕事はしないの。電球の明かりだと影が出てずれるから。おて
んとさまが出てる間だけの仕事です。
反物を染めるときは生地を樅の一枚板の表裏にぐるっと張って染めます。端ま
で染めたら裏返す。型紙のつなぎがわからないように、順送りして染めるわけ。
型の幅は、腕で染めてちょうど楽に染められる幅なの。これなら同じ調子で染め
ていける。柄によってはつなぎが難しくて、送ったところがわかっちゃう。それ
を楽にしようとして、新しい型は大きくなってきてるんだけど、逆にゆがみが出
やすくなっちゃったんだよね。
染めるのに力はいらないんです。刷毛が鹿の毛で、とても柔らかいの。刷毛も、
刷る型紙、つまり文様の大小によって換えます。毛が長いと、細い線がおりない。
細い線は短い刷毛で、気分的に斜めに、角を使って刷る。平ら、真横に動かしち
ゃ刷れない。まあ、長い短いって言っても1ミリも違わないんだけど、感触でね。
刷毛で刷り込んで染めていくから、色が強く染まる。使う色ははっきりしたも
のが多いんだけど、染め上げた後、最後に全体をしぶき(桃の皮の染料)で染め
ちゃうの。出来上がったものを渋くするためにね。これで色が落ち着いて、深み
が出る。江戸更紗独特の色味になるんです。